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第3章|試練と成長
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第3章|試練と成長

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目次

試練と成長
#

プロローグ
#

武志「今のは……どういう意味だ。“一つだけじゃない”って……」
女「そのままの意味よ。貴方なら、説明は不要でしょう?」
武志「……他にも何かが動いている、ということか?」
女「目立てば目立つほど、向こうから近づいてくるわ。」
女「いずれ分かることよ。――忠告はしたわ。それじゃ。」
武志「待て! まだ――」
???「山瀬武志くん、だね。」
武志「……!」
広樹「少しだけ、時間をもらえるかな。君に確認したいことがある。」

対峙
#

武志「えっと……失礼ですが、どちら様でしょう?」
広樹「安齋。安齋広樹だ。」
武志「山瀬武志です。よろしく――」
広樹「そんなにかしこまらなくていい。少し聞きたいことがあるだけだ。」
(相棒)「ようじん しろ、たけし。とずろん ていこく の もの には みえない が……ぐうぜん ここ に いる とも おもえない。」
(武志)「まさか……さっき彼女が言っていた“別の脅威”って、この人のことか?……いや、慎重にいこう。」
広樹「“異常事象”という言葉を聞いたことはあるか?」
武志「えっ……UFOとか、陰謀論とか……そういう話ですか?」
広樹「必ずしもそうとは限らない。もちろんそういう類のものもあるが……」
広樹「もっと一見すると単純な出来事も含まれる。突然の失踪、不可解な事故……通常の説明では片づけられない現象のことだ。」
武志「なるほど……。聞いたことはありますけど、でも結局は何かしら合理的な理由があるんじゃないかと思いますけどね。」
広樹「……じゃあ聞く。」
広樹「お前自身が、そういう出来事に関わったことはあるか?」
武志「……どういう意味です?それに、どうして僕がそんなことをあなたに話さないといけないんですか?」
広樹「別に無理に聞き出すつもりはない。ただ、いくつか調べていてな。」
武志「それで?」
広樹「大学で“何か”が起きたことは知っている、山瀬。」
広樹「それに昨日、あの廃モールの近くにいたこともな。」
武志「待ってくれ! いったい何の話ですか?」
広樹「お前が関わっていることは分かっている。今さら知らないふりをしても意味はない。」
広樹「だが安心しろ。責めに来たわけじゃない。」
広樹「さっき言った通り――確認したいだけだ。」
武志「確認……?」
広樹「山瀬武志。」
広樹「お前は、この国の敵か?」
武志「……は?」
武志「は? 敵って……どういう意味だ?」
広樹「……俺たちは、この国を“異常事象”から守ることを誓っている。」
広樹「だから聞いている。山瀬――お前は、どちら側の人間だ?」
武志「まさか……公安か何かですか?」
広樹「いや。関係はあるが、所属はしていない。」
広樹「俺は異常事象調査部の部長だ。」
広樹「この国で起きる説明不能な事件――消失、不可解な事故、正体不明の現象……」
広樹「そういう“普通では片づけられない出来事”を調査し、対処する部署だ。」
広樹「まあ……表には出ない仕事だがな。」
広樹「で、山瀬。 お前は何を隠している?」
武志「……その尋問みたいな態度をやめてくれるなら、話してもいいですよ。」
広樹「そうか。なら好きに話せ。」
武志「ただし、話すのはここまでです。それ以上は期待しないでください。」
広樹「構わん。」
広樹「……なるほど。“トズロン帝国”か。高度な技術を持つ勢力で、すでにこの街に潜り込んでいる……そういう話だな。」
武志「ええ。」
武志「私も詳しいことは知りませんが、彼らは正面から侵略するより――」
武志「裏から静かに侵入するのを好むようです。」
広樹「つまり……大学の件も。」
広樹「最近の学生失踪も、そいつらの仕業だと?」
武志「ええ。ですが――」
武志「その脅威は、もう……排除されました。」
広樹「ほう。」
広樹「お前がやったのか?」
武志「さあ。」
武志「そこは、ご想像にお任せします。」
広樹「……はっ。」
広樹「ははは!」
武志「ちょっと! 何がおかしいんですか?」
広樹「いやなに。」
広樹「少なくとも、お前がこの国の敵じゃないことは分かった。」
武志「は?」
広樹「……もし敵だったらな。」
広樹「お前はもう死んでいる。」
武志「ええっ!?本気ですか!?」
広樹「本気だ。俺が一人で来たと思ってるのか? 今この瞬間も、複数の位置から監視されてる。……科学者のわりに、ずいぶん甘いな。」
武志「はぁ……分かりました。で、危険じゃないと分かった今、私に何を?」
広樹「本当はスカウトするつもりだったが…… その顔を見れば分かる。興味はなさそうだな。だから――」
ピッ
武志「……メッセージ?」
広樹「好きに動け、山瀬。ただし――何が起きても、自分で背負え。こちらは基本、関与しない。だが、必要になったら……その番号にかけろ。」
広樹「それじゃあな。こっちも仕事がある。」
武志「ま、待って――」
広樹「……死ぬなよ、山瀬。」
武志「……はぁ。なんなんだ、あの人……視線だけで、心の中まで覗かれた気分だ……」
相棒「あの おとこ……おおきな せきにんを せおっている な。まさに しきかん、と いった ところか。」
相棒「――それで、どうする?」
武志「まぁ……干渉はしない、って話だったしな。 私たちは私たちで、自由に動けるってことだ。」
相棒「それは つまり―― おまえ が やることに なる、ということだな。」
武志「分かってるよ。でも、それは後で考えればいい。ここで時間を使いすぎた。 ……大学で蛭川先生と約束があるんだ。 急がないと、怒られる……」
女「……」
女「……本当に、あなたにそっくりね。」

異変
#

源一郎「おや、山瀬。やっと来たか。」
武志「すみません、蛭川先生。途中で少し――」
源一郎「いや、構わんよ。ちょっと君の意見を聞きたくてね。」
武志「私の、ですか?」
源一郎「北側の保管庫を修繕中に確認していたんだが……いくつか品がなくなっていてね。」
武志「!」
源一郎「……正確には、京都から研究用に送られてきたものが、まとめてだ。」
武志(危なかった……)
源一郎「どうした、山瀬? 少し顔色が悪いぞ。」
武志「い、いえ……問題ありません。それより……あれは返却予定の史料でしたよね?」
源一郎「その通りだ。材質的にも特筆すべき点はない。少なくとも、我々にとってはな。」
源一郎「だからこそ不可解なんだ。価値の低いものを、わざわざ盗む理由がない。」
武志(……帝国の仕業か?)
相棒(だんていするには じょうほうが たりない……だが かのうせいは ある。)
武志「蛭川先生……警察には?」
源一郎「もちろんだ。だが、打つ手なしと言われてね。」
源一郎「侵入の痕跡はない。扉も施錠されたままだった。」
源一郎「……まるで、最初から存在しなかったかのように消えている。」
武志「……通常の手口ではなさそうですね。」
武志「……だとすると、現場を確認したいです。手がかりが残っているかもしれません。」
源一郎「期待はできんが……構わんよ。」
武志「ありがとうございます、蛭川先生。では、行ってきます。」
武志「……行くぞ、相棒。」
相棒「いいだろう。」

運命的な出会い
#

武志「……蛭川先生の言った通りだ。まったく痕跡がない。」
相棒「“みえる” こんせき は、な。」
武志「どういうことだ?」
ザァァ……
相棒「ひん は きえたのではない。てんそうされたのだ。」
相棒「しゅだんのとくていはこんなんだが……わずかにこんせき が のこっている。」
相棒「わたしには、それが かんち できる。」
武志「おっ、珍しく私が何もしなくても役に立ってるな。」
相棒「おまえ が “しごと”をするためのちからをあたえているのは、わたしだ。わすれるな。」
武志「はいはい、冗談だって。」
武志「……つまり、それを辿れば行き先が分かる、ってことか?」
相棒「かのうせいはある。」
相棒「ただし、ひじょうに びじゃくだ。じかんとともに きえつつある。」
相棒「たいしょうに ちかづけば、よりめいかくになるだろう。」
武志「なら急ごう。どっちだ?」
相棒「ほうい……ほくせい、およそ ろくど。」
武志「工業地帯の方か……よし、行くぞ!」
武志「もう一時間くらい探してるが……何か手がかりはあるか?」
相棒「ざんねん ながら……こんせき は ひじょうに うすくなっている。」
相棒「せいかくな いち の とくてい は こんなんだ。」
武志「ついてないな……このままだと、唯一の手がかりも見失いそうだ。」
女「おや、山瀬くん。まだ探しものかしら?」
武志「うわっ!? いきなり後ろに立つな!」
武志「あ……また君か。」
女「ええ。山瀬武志くん。また会ったわね。」
武志「……というか、その格好は何だ? さっきまでOLじゃなかったか?」
女「細かいことを気にするのね。」
女「それより――やるべきことがあるんじゃない?」
女「何か、探しているのでしょう?」
武志「『どうしてそれを』って言いたいところだが……」
武志「最近、妙なことには慣れてきた。」
武志「……で、何か知ってるのか?」
女「さあ、どうかしら。」
武志「正直、あんたを信用するのは難しいな。名前も知らないし。」
女「それはもっともね、山瀬くん。」
女「では、改めて――」
アニャ「アニャ、と呼んでちょうだい。」
アニャ「よろしく。」
武志「……よろしく、アニャさん。」
アニャ「まあ、この時代に見知らぬ相手を信用しろという方が無理よね。でも、もし私があなたを襲うつもりなら――とっくにやっているわ。」
アニャ「帝国は、敵に対してそういうやり方をするもの。」
武志「安心していいのか、微妙なところだな……」
アニャ「だって、これは運命の出会いなんだから。」
アニャ「こんな美しい女性と出会えたのよ? それ以上、何を望むの?」
武志「例えば……私が探している“何か”について、とか。 それを知ってるのか?」
アニャ「ふふ……やっと自分から動いたわね。 初デートにしては、ちょっと強引じゃないかしら?
アニャ「いいじゃない。 それで――探し物の場所だけど。 この先にある廃倉庫を見てみるといいわ。この道をまっすぐ行けば、すぐに着く。」
武志「助言はありがたいが……それが罠じゃないって、どうやって信用すればいい?」
アニャ「ふふ……山瀬くん。」
アニャ「安心しなさい。帝国の滅びを――誰よりも望んでいるのは、この私よ。」
武志(……笑ってるのに、冗談に聞こえないな。)
相棒(かのじょは……ていこくの みかたには みえない。)
武志(……仕方ないか。手がかりは、これしかない。用心はしておくか……)
武志「……はあ。分かったよ。他に当てもないしな。今回は、君の言葉を信じる。」
アニャ「いい判断よ。初デートで女性を疑うなんて、失礼だもの。」
武志「誰がデートだ!」
アニャ「あははっ! 面白い人ね、山瀬くん。気に入ったわ。」
アニャ「それじゃ――せいぜい、がんばってね。」
武志「おい、待て――!」
武志「……って、またか。」
相棒「ふしぎな おんなだな……だが……なつかしい かんじが する。」
武志「懐かしい?」
相棒「げんじてん では、はんだん は こんなん だ……だが――いまは じゅうよう では ない。」
武志「……そうか。廃倉庫……この先だったな。とりあえず、行ってみるか。」
相棒「もんだいない。」

遭遇戦
#

武志「……着いたな。……どこにでもある廃倉庫だな。」
相棒「ここにこんせきをかんじる。なかをしらべるべきだ。」
武志「盗まれた品も、ここにあるといいが……」
武志「それにしても……帝国が、どうして価値の低い物まで狙うんだ?」
相棒「とずろんていこくが、たんなるせっとうにかかわるとはかんがえにくい。そうちのしょくばいか、あるいはじっけんざいりょう……といったところだろう。」
武志「どちらにせよ……ろくでもない使い方だろうな。だからこそ、取り返す。」
武志「……見渡す限り、瓦礫ばかりだな。何年も放置されていたように見えるが……」
相棒「みかけにまどわされるな……だれかがくる。けいかいしろ。」
武志「……え?」
男「……ッ」
男「チッ……」
男「……フッ」
武志「その様子だと……世間話をしに来たわけじゃなさそうだな。何者だ?」
ギンッ
武志「……トズロン帝国!やはり罠か……!」
相棒「いや……れんちゅうも、おまえのそんざいはそうていしていなかったようだ。しんにゅうじに、けいほうをさどうさせたかのうせいがたかい。」
相棒「……いずれにせよ、かんがえているひまはない。くるぞ!」
武志「……言われなくても分かってる!」
武志「エクス――チェンジ!!」
武志「来い……相手になってやる!」
ドッ!
バッ!
シュッ!
戦士A「ハッ!」
戦士B「トウッ!」
戦士C「セイッ!」
ガガガッ!
ドンッ!
バキッ!
武志「ぐっ……! 速い……それに、重い!」
相棒「おまえののうりょくは、やつらをおおきくうわまわっている。おしきることはかのうだ。」
武志「だから、押してるつもりなんだがな……!」
武志「これで――!」
ブンッ!
相棒「ひくい。かわされている。」
武志「見れば分かる! だが、どう直せばいいかまでは分からない!」
戦士A「もらった!」
ゴウッ!
武志「うっ……! 危なかった……!」
武志「なら……今度はこちらの番だ!」
武志「はあっ!」
ドガッ!
戦士A「ぐあああっ!」
ドゴォンッ!
戦士A「ぐ……っ……」
武志「よし……一人止めた!」
相棒「ゆだんするな。まだおわっていない。」
戦士B「くらえ!」
ボウッ!
ドォンッ!
相棒「なぜせっきんする。いいまとだ。」
武志「当てるには近づくしかないだろう!」
相棒「そのひつようはない。おまえのちからをおもいだせ。」
武志「……そうだったな!」
武志「ブレード……カッター!!」
ギュオッ!
ザンッ!
武志「これで、残るはお前だけだ。盗まれた品の行き先を話してもらおう。」
ジャキンッ!
戦士C「……フッ。」
武志「……交渉決裂、というわけか。」
戦士C「来い……背教者。」
武志「待っていても、始まらない……行くぞ!」
戦士C「斬り伏せる!」
武志「うおおおっ!」
戦士C「遅い。」
武志「かわされた……!?」
相棒「とうぜんだ。うごきがよみやすい。」
武志「そんなこと、言われても……!」
戦士C「フンッ!」
ダンッ!
ヒュッ!
戦士C「くたばれ!」
相棒「たけし、よけるか、うけろ。はやく!」
武志「うあああっ!」
ギィンッ!
戦士C「……!!」
武志「何が起きた!?」
相棒「やつのけんが、おまえのけんにはじかれた。いましかない。」
武志「ティアアア!」
ザシュッ!
戦士C「ぐあああっ!」
ドサッ!
武志「正直……生き残れたのが信じられないな。」
相棒「たけし。おまえは、うんがいい。」
武志「そこは否定しない。だが……盗まれた品の行き先は、まだ分からないままだ。」
相棒「てきはまだいきている。ながくはもたないだろうが、きくならいまだ。」
武志「……そうだな。」
武志「おい。盗まれた品はどこだ。なぜ大学から持ち出した?」
戦士C「ぐ……死にゆく者に……知る必要はない……」
武志「死にゆく者……? 私のことか?」
戦士C「……」
武志「おい、しっかりしろ! まだ何も聞いていない!」
戦士C「帝国に……栄光……あれ……」
武志「……駄目だ。息絶えた。」
相棒「ふりだしにもどったな。」
武志「嫌な言い方をするな……だが、その通りだ。」
相棒「さんにんがあらわれたほうをしらべろ。なにかのこっているかもしれない。」
武志「分かった。手がかりくらいは――」
ゾクッ……
武志「ぐっ……何だ、この感覚は……」
武志「腹の底が……凍る……!」
相棒「たけし。いますぐはなれろ。はやく!」
武志「そうしたい……! だが、足が……動かない……!」
???「ほう……」
???「これが、我らの計画にちょっかいを出しているという背教者か。」
???「さて……どれほど我らを愉しませてくれる?」

悪夢
#

武志「お……お前は、何者だ……!?」
???「ほう。」
???「この虫けらにも、多少の知性は残っていたか。」
???「面白い。ならば、知る権利を与えてやろう。」
???「我らは――」
???「……いや、失敬。」
???「我らの真名は、貴様らの哀れな存在にはあまりに複雑すぎる。」
武志「……私をからかっているのか?」
???「いや。事実を述べたまでだ。」
???「とはいえ、我らにも品位というものがある。」
???「ゆえに、貴様ら下等な者にも理解できるよう……貴様らの矮小な歴史書より借り受けた名を使ってやろう。」
???「我らは――トズロン帝国副帝、レオンハルト・フォン・ヘルダーン。」
???「数多の者に憎まれ、なお多くの者に恐れられる存在よ!」
武志「ぐっ……! なんて気配だ……!」
相棒「ふくていみずからあらわれるとは……れいこくさでは、ていこくでもしられたそんざいだ。」
武志「分かる……! こいつは……何億殺しても、顔色一つ変えない……!」
レオンハルト「さて、虫けら。」
レオンハルト「我らも忙しい身でな。そろそろ終わりにするとしよう。」
レオンハルト「己の死を受け入れる準備はできたか?」
武志「……悪いが、まだ生きる予定が山ほどある!」
レオンハルト「軽口で命は拾えぬぞ、背教者。」
レオンハルト「物を言うのは力だ。そして……」
レオンハルト「貴様には、それがない。」
ザシュッ!
武志「ぐあっ……!」
相棒「たけし!」
武志「ぐっ……見えなかった……斬られた瞬間すら……!」
相棒「たけし、やつとはたたかえない。にげるぞ。」
武志「分かっている……! だが、あいつが道を塞いでいる……!」
武志「突破するしか……」
レオンハルト「ふむ……見た目よりは頑丈だな。」
レオンハルト「あの一撃で、脚の一本くらいは落ちると思ったが。」
レオンハルト「よい。これなら、多少は余興になる。」
武志「私は……誰かの見世物になるつもりはない!」
武志「うおおおっ!」
ギィンッ!
レオンハルト「……それだけか?」
武志「なっ……!」
レオンハルト「それが貴様の全力か、背教者。」
レオンハルト「素人の剣にも、まだ見るべきものはある。だが……」
レオンハルト「貴様のそれは、ただの棒振りだ。」
ドガッ!
武志「ぐあっ……!」
武志「ぐっ……」
相棒「くるぞ!」
武志「!」
レオンハルト「はははははっ!」
レオンハルト「弱い……弱いな、背教者!」
ズバババッ!
武志「ぐああああっ……!」
相棒「たけし、しっかりしろ!」
武志「ぐっ……がはっ……!」
武志「強すぎる……勝負にすら、なっていない……!」
レオンハルト「まだ生きているか。驚いたぞ、背教者。」
レオンハルト「よい……実によい余興だ。」
武志「はっ……私は……まだ……死ぬ予定がないんでね……」
レオンハルト「だが、茶番はここまでだ。」
レオンハルト「覚悟はよいか、背教者。」
バチッ……バチバチバチッ!
相棒「まずい。たけし、よけろ!」
武志「できるなら……とっくにそうしている……!」
武志「だが……身体が……動かない……」
相棒「……けっかいをはる。もつかは、かけだ。」
ギュオオオオッ!
レオンハルト「死ね、背教者!!」
レオンハルト「深紅……波動!!」
ドォッ!!
武志「ぐあああああああっ!!」
ドゴォンッ!!
バチッ……
ドォォォンッ!!
レオンハルト「はははははっ!」
レオンハルト「なんとも哀れな小虫よ。だが、我らは満足した。」
レオンハルト「これを教訓とするがいい。」
レオンハルト「トズロン帝国に楯突き、生きて帰れる者などいないとな!」
シュンッ!
ザァァァ……
武志「ぐっ……が……」
相棒「いきているな。よかった。」
相棒「だが、きずはふかい。いまはうごくな。かいふくには、じかんがかかる。」
武志「……」
相棒「たけし?」
武志「ぐっ……」
武志「うああああああああああっ!!」

雨中の再会
#

まや「朝から先輩と連絡が取れない……」
まや「何か、あったのかな……」
まや「え……? 誰かいる……」
まや「誰――」
まや「……ッ!!」
武志「ま……や……」
武志「よりによって……君にだけは……こんな姿、見られたくなかったな……」
武志「ぐっ……!」
まや「先輩!? 何、その傷……!?」
まや「何があったの!?」
武志「負けた……」
武志「ただ……無様に……負けただけだ……」
武志「ぐっ……!」
ドサッ!
まや「先輩!」
まや「しっかりして! 先輩!!」

目覚め
#

武志「う……ここは……?」
まや「先輩!」
武志「まや……? 本当に……まやなのか……?」
まや「やっと起きた……! 何時間も意識なかったんだよ!」
武志「何時間……?」
武志「待て……ということは、ここは病院か。だが、どうやって……」
まや「そんなの、あとでいいでしょ……!」
まや「私……本当に心配したんだから。目を覚ましてくれて……よかった……」
武志「まや……すま――」
広樹「ゴホン。」
広樹「山瀬。もう少し周囲に注意を払った方がいいな。」
武志「安齋部長!? どうしてここに……?」
広樹「またか。お前は研究者のわりに、状況をつなげるのが下手だな。」
広樹「考えてみろ。あの状態で病院に運び込まれて、誰にも気づかれないと思うか?」
武志「……言われてみれば、確かに。」
広樹「お前が公園を出た時点で、こちらは足取りを追っていた。」
広樹「倉庫群に入ったところで一度見失ったが……その後、蛭川君がお前を見つけた場所の近くで再捕捉した。」
武志「驚くべきか、怖がるべきか……判断に困りますね。」
広樹「その話は後だ。」
広樹「今は、もっと差し迫った問題がある。」
広樹「山瀬。話してもらうぞ。」
広樹「あの倉庫で、何が起きた?」
武志「遠回しにしても仕方ないな。相棒。」
相棒「そうだな。いまさらかくしても、いみはない。」
広樹「……!」
まや「ピカちゃん! やっぱり一緒にいたんだ!」
広樹「……ピカちゃん?」
武志「はは……そこは気にしないでください。」
武志「どこから話すべきか……」
広樹「なるほど。つまり、そのレオンハルト・フォン・ヘルダーンという男は……帝国の上層部にいる存在、というわけか。」
武志「本人は、トズロン帝国の副帝だと言っていました。」
まや「レオンハルト・フォン・ヘルダーン……先輩をこんな目に遭わせたやつ……最低……!」
武志「落ち着け、まや。あいつが邪悪な存在なのは間違いない。」
武志「だが、私が負けたのは……私が弱かったからだ。」
相棒「いつもより、さらにすなおだな。」
まや「先輩のこと、そんなふうに――」
武志「事実だ。」
武志「私は剣の握り方すら、まともに分かっていない。生きて戻れたのは、ただ運がよかっただけだ。」
武志「それに今こうしているのも、自分の力じゃない。与えられた力に助けられているだけだ。」
相棒「そのとおりだ。はいきょうしゃのさいせいのうりょくがなければ、たけしはしんでいた。しかも、それでもぎりぎりだった。」
まや「でも……」
武志「まや。支えてくれようとしているのは分かる。」
武志「だが、現実は見なければならない。」
まや「……」
広樹「その自己分析は興味深いな、山瀬。」
広樹「だが、問題はそこからだ。お前はその弱さを、どう解決するつもりだ?」
広樹「盗まれた品も、まだ帝国の手にある。次にどう動く?」
相棒「たけし。なにかあんはあるのか。」
武志「もちろんある。」
武志「剣を扱えるようになる。」
相棒「おどろくほどまともなけつろんだ。」
武志「そこで驚くな!」
まや「……本気なの、先輩?」
武志「ああ。本気だ。」
武志「ただ、そのためには安齋部長の協力が必要です。」
広樹「面白い。何を望む?」
武志「先に言っておきますが、部署に入るつもりはありません。それは以前にも伝えた通りです。」
武志「ですが……誰にも邪魔されずに訓練できる場所を、用意してもらえませんか。」
広樹「本来なら、規定外の要望だ。だが今は、トズロン帝国という共通の敵がいる。」
広樹「訓練場所くらいなら、こちらで手配しよう。続けたまえ。」
武志「背教者としての能力を利用します。」
武志「普通なら何年もかかることでも、この身体なら短期間で叩き込める可能性がある。」
武志「二週間。そこで限界まで訓練します。」
武志「達人になるつもりはありません。だが、少なくとも……運任せで生き残る状態からは抜け出したい。」
相棒「ちょっかんとほんのうにたよるなら、かのうせいはある。」
武志「それと、部長。」
武志「表向きは、回復のための療養ということにできませんか。大学や周囲に、不自然に思われないように。」
広樹「それも問題ない。」
まや「だったら……私も手伝う!」
武志「まや?」
まや「私にできることなんて、そんなに多くないかもしれないけど……」
まや「でも、少しくらいなら教えられる。お願い、先輩。私にも手伝わせて。」
武志「……断っても、どうせ聞かないんだろうな。」
まや「うん。」
武志「即答か……」
武志「分かった。ただし、学校に支障が出ない範囲でだ。」
まや「うん!」
広樹「ふっ……お前も、お前の周囲も、実に興味深いな。山瀬。」
広樹「だが、私はそろそろ失礼する。」
広樹「準備ができたら、あの番号に連絡したまえ。」
広樹「こちらでも、帝国の動きを追っておく。」
武志「ありがとうございます、安齋部長。」
広樹「死ぬなよ、山瀬。」
武志「……まやも、そろそろ帰った方がいい。」
まや「分かってる。でも……先輩を一人にして帰るの、嫌だよ。」
相棒「たけしはひとりではない。わたしがそばにいる。ひつようなら、ぶきにもなれる。」
まや「ピカちゃん……そういう意味じゃないんだけど。」
相棒「おまえたちのいう、かんじょうのりかいはむずかしい。だが、まやがどうようしていることはわかる。」
まや「も、もう! そこはいいの!」
まや「私はただ……先輩の力になりたいだけ。」
武志「なっているさ。」
まや「え……?」
武志「君が見つけてくれなかったら、どうなっていたか分からない。」
武志「ありがとう、まや。」
まや「……へへ。」
武志「今、笑ったか?」
まや「笑ったけど。何か問題ある?」
武志「いや、まったく。」
武志「いつものまやに戻ったみたいで、少し安心した。」
まや「……もう。」
武志「だからこそ、今日は帰った方がいい。ご両親も心配する。」
まや「お父さんは、私より先輩の方を心配してる気がするけど……」
まや「でも、分かった。今日は帰るね。」
武志「退院できそうになったら連絡する。」
まや「無茶しないでよ。ちゃんと休んで、ちゃんと治して。」
まや「じゃあね、先輩。また来るから!」
武志「はあ……疲れた……」
相棒「きずは、すでにかんぜんにふさがっている。なにがつかれたのだ。」
武志「そういう意味じゃない。」
武志「帝国、副帝、あの女……それに、異常事象調査部。」
武志「関わる人間が、一気に増えすぎた。」
相棒「そのとおりだ。じょうきょうは、ふくざつになっている。」
相棒「げんじてんで、われわれがじたいをおおきくうごかすのうりょくはかぎられている。」
武志「……だろうな。」
武志「だからこそ、今できることをやるしかない。」
武志「立ち止まっていても、何も変わらない。」
武志「進むぞ、相棒。」
相棒「りょうかいした。」
アニャ「…」
アニャ「頑張ってね、山瀬くん。」

修練
#

武志「ここか……改修中の倉庫っていうのは。」
相棒「ほんかくてきなくんれんをおこなうばしょにしては、ずいぶんとありふれている。」
武志「当たり前だろ。目立たないことが一番なんだから。」
相棒「それはりかいしている。ただ、こうりつのよいくんれんができるかは、べつのもんだいだ。」
武志「ぜいたくは言っていられないさ。人目につかなければ、それで十分だ。入るぞ。」
武志「訓練するとは言ったものの……正直、何から始めればいいのか分からないな。」
相棒「けんじゅつにしゅうちゅうするのなら、こういうほうほうがある。てをのばせ。」
武志「こうか? ……うわっ、光り出した! 何をしてるんだ!?」
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
ドドドンッ!
ザッ……ザッ……ザッ……
武志「うわっ! この三人……私とそっくりじゃないか!」
相棒「そのとおり。おまえをもとにつくったうつしみだ。もちろん、じがはない。おまえといれかわったり、おまえのかわりになったりすることはない。」
武志「……あの虚ろな目を見れば分かるよ! それで、こいつらをどうするんだ?」
相棒「てきだとおもえばいい。わたしはかんぜんなそんざいではないが、たたかいかたのきおくはのこっている。こいつらは、そのきおくにもとづいてうごく。」
武志「つまり、稽古相手か……命懸けにならずに訓練できるってわけだな。」
相棒「ただし、こうげきをうければ、いたみはかんじる。」
武志「何だって!?」
相棒「ぶきをつかうというのは、ただふりまわせばいいということではない。きけんをかんじなければ、むぼうなうごきをするようになる。」
武志「はぁ……まあ、言ってることは分かるけどさ。」
武志「とにかく、これ以上時間を無駄にするのはやめよう。始めるぞ。」
相棒「わかった。こいつらはてかげんしない。かくごしておけ。くるぞ!」
武志「絶対あとで後悔する気がするけどな……かかってこい!」
それからの一週間、山瀬武志は、相棒が生み出した分身たちに勇敢にも挑み続けた――そして、そのたびに見事なまでに返り討ちに遭った。
だが、繰り返される痛みと屈辱、そして苦闘の中で、武志は自分の内に何かが芽吹き始めていることに気づいていた。
その芽を、決して枯らしてなるものか。
まや「はああっ!」
ドガッ!
武志「ぐあっ!」
ドサッ!
まや「立って、先輩! もう! なんでこれくらいで倒れるの!」
武志「これくらいって……今の蹴り、本気で痛かったんだぞ、まや!」
まや「痛いのは当たり前でしょ! 先輩が戦ってる相手は、もっと本気で殺しに来るんだよ!」
武志「それは分かってる。だが――」
まや「分かってない!」
まや「先輩は私より年上で、体格だって上。そのうえ今は、背教者の力まで使ってる。」
武志「何が言いたい?」
まや「決まってるでしょ! 本当なら、最初から先輩が圧倒してなきゃおかしいの!」
まや「私は十七歳の女の子だよ。空手をやってるって言っても、今の先輩に力で勝てるわけない。」
武志「それなのに?」
まや「先輩の動きが雑で、隙だらけだから負けるの! この、ばか!」
相棒「まやのいうとおりだ、たけし。たいじゅつのけいけんがまったくなくても、おまえのほうがゆうりだったはずだ。」
武志「どっちの味方なんだ!? 一緒にやるって話だっただろ!」
相棒「わたしは、おまえがしなないことをじゅうししている。」
武志「言い方ってものがあるだろ!」
相棒「それと、ぶきをもたないたたかいにもなれておくべきだ。」
相棒「そうすれば、はいきょうしゃのちからを、さらにひきだせる。」
武志「さらに? 単に腕力が上がるって話じゃないのか?」
相棒「ちがう。せいめいのちからをこうげきにのせることで、いりょくをおおきくたかめられる。」
武志「それは便利そうだな。」
相棒「ただし、まずはこうげきをあてなければならない。」
相棒「もちろん、まやをあいてにためすことはすすめない。」
武志「そんなこと、するわけないだろ!」
まや「でも……どうせ当たらないと思う。」
まや「手加減されたら腹が立つけど、先輩は手加減する以前の問題だし。」
武志「容赦ないな……」
まや「私にできるのは、これくらいしかないの!」
まや「先輩と一緒に戦えるなら、私だってそうしたいよ!」
まや「でも、できないから……せめて、これくらいはさせて。」
まや「だから先輩も、ちゃんと付き合って!」
武志「分かってる。分かってるよ……」
まや「じゃあ、もう一度いくよ。準備はいい?」
武志「……ここまで来たら、やるしかないな。」
武志「来い、まや!」
その後も、武志は何度となく敗れた。だが、同じ負け方はしなくなっていた。打ち倒されるたびに、少しずつ。痛みを重ねるたびに、確かに。胸の奥に芽生えた何かは、ゆっくりと育ち始めていた。
シュウウウッ……
相棒「きょうのくんれんは、ここまでだ。」
武志「はぁ……疲れた。」
武志「二週間も、もう終わりか……ようやく少し分かってきた気がする。」
相棒「まだふじゅうぶんだ。だが、どうしようもなくふじゅうぶんではなくなった。」
武志「励ます気、まったくないだろ!」
相棒「ほめても、せいぞんりつはあがらない。」
武志「もういい……お前には期待しない。」
武志「それより、まだ――」
プルルルル……
武志「……知らない番号だな。誰だ?」
武志「もしもし?」
女「山瀬君ね。」
武志「待て……私はあなたを知らない。何者だ?」
女「あら……ずいぶん警戒してるのね。」
女「そんなに構えなくても大丈夫よ。安齋部長の代理で連絡しているだけ。」
女「あなたが探しているものについて、少し気になる情報があってね。」
武志「待て。盗まれた品が見つかったのか?」
女「いいえ。そこまでは言えないわ。」
女「今のところは……勘、というところかしら。」
女「以前あなたが行った場所の近くで、不自然な人の出入りが増えている。」
女「それに、防犯カメラの異常と、原因不明の電力変動も確認されているわ。」
女「部長が、あなたなら興味を持つだろうって。」
武志「なら、なぜそちらで調べない?」
女「ふふ。やっぱり警戒心が強いのね。」
武志「質問に答えてくれ。」
女「はいはい。」
女「さっきも言ったでしょう? まだ勘の段階なの。」
女「公式には何も起きていない場所へ、部を動かすわけにはいかないのよ。」
武志「だったら、なぜ私に知らせる?」
女「あなた、本当に面白い人ね。いい意味で。」
武志「……何が面白い?」
女「例の品が近くにあるかどうか、あなたなら分かるんでしょう?」
武志「……!」
武志「それは……そうだ。」
武志「だが、“面白い”は余計だろ。」
女「あはは。冗談よ、冗談。」
女「もう少し肩の力を抜いたら? 山瀬君。」
武志「……異常事象調査部の人間は、みんなこうなのか?」
女「さあ、どうかしら。」
武志「……まあいい。本題に戻ろう。」
武志「つまり、私たちに調べろということか?」
女「私は情報を渡しただけ。」
女「行くか、行かないか。それを決めるのはあなたよ。」
武志「行く。」
武志「帝国がまた何か企んでいるかもしれないのに、放っておけるわけがない。」
女「ふふ……やっぱり面白いわね、山瀬君。」
武志「またそれか……」
女「部長には伝えておくわ。気をつけてね。」
プツッ。
武志「……切れた。」
武志「相棒、動くぞ。部が盗まれた品の場所を掴んだかもしれない。」
相棒「なぜ、じぶんたちでかくにんしない。あのぶしょは、かなりゆうのうにみえる。」
武志「そこに本当にあるかどうか、確証がないからだ。」
武志「確認できるのは、私たちだけだ。」
相棒「そして、せきにんもおまえにのこす。」
武志「……そういうことだろうな。」
相棒「きをつけろ。おまえのくんれんは、まだかんせいしていない。」
武志「分かってる。」
武志「もう少し時間が欲しかったが……今あるものでやるしかない。」
相棒「それなら、もんだいない。」
武志「いや、問題はある。」
武志「ただ、他に手がないだけだ。」
武志「行くぞ。」

潜入
#

相棒「ここだ。はんのうが かなりつよい。」
武志「物流倉庫か……見たところ、特に変わったところはないな。」
武志「先に変身してきたのは、少し早まったかもしれない。」
相棒「いちど ふいうちをうけている。そなえておくに こしたことはない。」
武志「それはそうだが……」
武志「あの作業員たちも、前に会った連中ほど怪しくは見えない。」
相棒「まちがいなく、トズロンていこくのへいしだ。」
相棒「うばわれたものを とりもどすなら、あいつらを たおすひつようがある。」
武志「待て。もし普通の人間だったらどうする?」
武志「関係のない人を巻き込むのは御免だぞ。」
相棒「それなら、すぐに たしかめられる。せかんどさいとを つかえ。」
武志「……あ。」
相棒「じぶんの のうりょくくらい おぼえておけ。そうでなければ、ながくは いきのこれない。」
武志「はいはい、悪かったな!」
武志「試してみる。表面じゃなくて、その“向こう側”を見るんだったな?」
相棒「そのとおりだ。」
武志「よし……やってみる!」
ザザッ――!
ゴォォォ……
武志「……! やっぱりトズロン帝国の兵士か!」
相棒「わたしの よそうどおりだ。」
相棒「それで、どうする?」
武志「三人だけか……よほど、ここまで誰かが来るとは思ってないらしい。」
相棒「そのかのうせいは たかい。」
相棒「だが、いまのおまえが さんにんを どうじにあいてにするのは すすめられない。」
武志「私も同じことを考えてた。」
武志「とはいえ、こそこそ潜り込めそうな状況でもない。」
武志「何とかして、こっちに有利な状況を作るしかないな……」
武志「……よし。考えがある。」
相棒「なにをするつもりだ。」
武志「不意を突く。」
武志「気づかれる前に一人を倒す。残りが混乱している間に、続けて仕留める。」
相棒「きけんだ。」
武志「三人まとめて相手にするよりはましだ。」
武志「この賭けに乗る。」
相棒「いろんはない。」
武志「なら、始めるぞ。相棒。」
相棒「よろこんで。」
シュウウウッ――
武志「行くぞ! うおおおおっ!!」
武志「ブレード……」
キィィィン……!
武志「カッター!!」
シュバァッ!!
戦士1「――!?」
ズバッ!
ザシュッ!
シュウウウウ……
武志「一人目! 残りが動く前に行くぞ!」
相棒「できるだけ はやく たおせ!」
戦士2「背教者……! 貴様ァッ!!」
戦士2「ぐ……ぐおおおおおお……!」
戦士2「うおおおおおおおおおッ!!」
ビリビリビリッ!
ガキン! ガシャン!
ギラッ!
戦士2「ぶっ殺してやる!!」
相棒「くるぞ!」
戦士2「うおおおおおっ!!」
ダダダダダッ!
武志「速い!」
戦士2「くらえぇッ!!」
ブォンッ! ブォンッ!
シュッ!
武志「危なかった……!」
相棒「まだだ。ゆだんするな!」
戦士2「これで終わりだァッ!」
ブォンッ!!
ガキィィン!!
武志「ぐっ……! なら……!」
武志「こっちから押し返す! とりゃああッ!!」
戦士2「!?」
相棒「いいぞ! おしかえした!」
武志「うおおおおおッ!!」
ズブッ!
戦士2「ぐあッ!」
シュウウウウ……
武志「よし! これで――」
ジャラララッ!
ガシッ!
武志「なっ――」
グイッ!
ドガァン!!
武志「ぐっ!」
相棒「あぶない!」
武志「!」
ヒュオッ!
戦士3「死ね!」
ガキッ!
武志「ぐっ……このっ!」
ガシッ!
ジャラッ!
戦士3「!?」
武志「とりゃああッ!」
ドゴッ!
戦士3「ぐあっ……!」
武志「まだまだ!」
ドガッ!
戦士3「ぐあああッ!」
ドサッ! ゴロゴロッ!
戦士3「くそっ……!」
戦士3「――!」
武志「うおおおおッ!」
ザシュッ!
武志「……」
戦士3「……」
戦士3「貴様……ぐあぁッ!」
ドサッ!
シュウウウウ……
武志「……これで最後か。」
相棒「よく、あのじょうきょうから もちなおしたものだ。」
武志「それ、褒めてるのか?」
相棒「いや。じじつを のべただけだ。」
相棒「だが、いぜんの おまえなら いきのこれなかったのも じじつだ。」
武志「はは……それなら、礼を言っておくよ。」
武志「まあ、反省はあとだ。増援が来るかもしれない。」
武志「盗まれた品を探そう。」
相棒「このはこのなかだ。はんのうが とてもつよい。」
武志「これか……見てみよう。」
武志「……あった。」
相棒「いぶつというわりには、ずいぶん ふつうにみえる。」
武志「実際、普通なんだ。」
武志「前にも言っただろ。江戸時代の古い品ばかりで、歴史的な価値も、素材そのものの価値もない。」
武志「なのに、どうして帝国がここまでして――」
???「それは、その素材が……ある種の工程において、極めて有用な触媒となるからだ。」
武志「……その声……まさか!」
レオンハルト「もっとも……貴様のような下等な頭では、理解することすら叶うまいがな。背教者。」
武志「レオンハルト・フォン・ヘルダーン……!」
武志「なぜ、ここにいる!?」
レオンハルト「ほう……我らを覚えていたか。」
レオンハルト「虫けらにも、それなりの記憶力はあるらしい。」
レオンハルト「だが……少々、自分を買いかぶりすぎではないか?」
レオンハルト「我らがここへ赴いたのは、貴様のためではない。」
レオンハルト「貴様ごときが知る必要もない、別の用件があってのことだ。」
レオンハルト「とはいえ……」
レオンハルト「貴様が生きていたことには、さすがの我らも驚かされたぞ。」
レオンハルト「これもまた、運命というものか。」
レオンハルト「ならば……我らとて、それに逆らう必要はあるまい。」
レオンハルト「今度こそ――」
レオンハルト「貴様という存在、その痕跡すら残さず消し去ってやろう。」

再戦
#

ゴクリ……
相棒「まずいぞ、たけし。いまのおまえでは、あいつとはたたかえない。ここはいったんひくべきだ。」
武志「できるならそうしたい……」
武志「だが、背中を見せた瞬間に斬られる。」
武志「逃げる隙を作るしかない。」
相棒「きけんすぎる。」
武志「それでも、可能性はゼロじゃない。」
武志「賭けるしかない。」
レオンハルト「どうした、背教者。」
レオンハルト「我らを前にして、また足がすくんだか?」
武志「……今度は、そうはいかない!」
武志「うおおおおッ!」
ザシュッ!
ガキィン!!
レオンハルト「フン……相変わらず、惨めな剣だ。」
レオンハルト「誇りというものがないのか?」
レオンハルト「その程度の腕で、よく我らに剣を向けられるものだ。」
武志「くっ……!」
レオンハルト「貴様には――剣を握る資格すらない!」
ザンッ!
ヒュルルルッ――
ザクッ!
武志「あっ……!」
レオンハルト「どこを見ている、背教者!」
レオンハルト「はあああッ!」
ゴォッ――!!
武志「ぐあああああッ!!」
ドンッ!!
ズガァン!!
武志「がっ……!」
ドサッ……
レオンハルト「少しは我らを楽しませるかと思ったが……」
レオンハルト「結局、以前と何も変わらぬではないか。」
レオンハルト「この程度の者を敵と呼ばねばならぬとは……帝国の名が泣くわ。」
レオンハルト「もうよい。」
レオンハルト「今度こそ――跡形もなく消してやろう。」
相棒「たけし!」
武志(……私は、本当にここで死ぬのか?)
武志(こんな……無様なまま、終わるのか……?)
武志(何もできないまま……全部、置き去りにして……)
まや「……ふふっ」
武志(……まや……)
武志(駄目だ……こんなところで終われるものか。)
武志(あいつを……悲しませるわけにはいかない。)
武志(ここまで来て……こんな終わり方をしてたまるか!)
武志(私は……まだ、屈しない!!)
レオンハルト「まだ抗うつもりか、背教者?」
レオンハルト「武器すら失った貴様に、何ができる?」
武志「……武器なんて、必要ない。」
レオンハルト「……何?」
武志「聞こえなかったのか!」
武志「お前を倒すのに……武器なんて必要ないと言ったんだ!」
レオンハルト「……ほう?」
レオンハルト「その光は……?」
相棒「!」
相棒「たけし! りょうてを あわせろ!」
相棒「そこに ちからを しゅうちゅうさせるんだ! いま!」
武志「うおおおおおおおッ!!」
ゴォォォォォ……!
武志「うおおおおおおおッ!!」
ゴォォォォォ……!
レオンハルト「チッ!」
バシュウウウウッ!!
レオンハルト「……くくっ。」
レオンハルト「まさか貴様ごときが、こんな芸当まで見せるとはな。」
レオンハルト「少しは楽しませてくれるようになったではないか、小虫。」
レオンハルト「だが――」
レオンハルト「この程度で、我らを傷つけられるとでも思ったか?」
武志「まだ終わっていない!」
武志「相棒!」
ズズッ……!
ヒュンッ!
ガシッ!
武志「……!」
サッ!
武志「決着をつけるぞ……レオンハルト・フォン・ヘルダーン!」
レオンハルト「ハハハハハッ!」
レオンハルト「面白い! その目だ、その目!」
レオンハルト「先ほどまで地を這っていた虫けらが、随分といい炎を宿したものだ!」
レオンハルト「来い、背教者!」
レオンハルト「せめて最期くらいは――我らを退屈させるな!」
ガキィンッ!
ザシュッ!
ズバッ!
武志「ぐっ……!」
レオンハルト「ほう……多少はましになったようだな。」
レオンハルト「だが――それでも、我らには刃ひとつ届かぬ!」
武志(……無茶をしすぎた。)
武志(頭に血が上って……こいつを斬ることしか考えていなかった……)
武志(今の私にできるのは、防ぐことだけだ。隙なんてまるで見えない……)
武志(このままじゃ……体力が尽きる……!)
武志「……!」
武志「……!」
武志(待て……)
武志(もしかしたら……)
武志「相棒! 一つ考えがある。」
武志「チャンスは一度きりだ……力を貸してくれるか?」
相棒「できるかぎり、ささえる。」
ザンッ!
ガクッ!
武志「ぐあっ!」
レオンハルト「終わりだ、背教者!」
武志「今だっ! てやああああっ!!」
ガキィィンッ!!
レオンハルト「なにっ!?」
レオンハルト「我らの剣を叩いたか!? しまった、体勢が――!」
武志「もらったぁぁぁっ!!」
ズバァッ!!
レオンハルト「ぐあああああっ!!」
武志「……やったのか?」
相棒「ざんねんながら、さいごのしゅんかんにかおをそらされた。」
相棒「ひたいをかすめただけだ。」
武志「ちっ……なら、まだ――」
レオンハルト「……よくも……」
武志「え……?」
レオンハルト「よくも……我らに傷をつけたな……!」
レオンハルト「よくもトズロン帝国副帝たる我らに傷をつけたな、背教者ぁぁぁッ!!」
レオンハルト「貴様には死すら生ぬるい!」
レオンハルト「この世で味わいうる限りの苦痛を与えた末に、跡形もなく消し去ってくれる!!」
ゴゴゴゴゴゴ……!
相棒「たけし! まずい!」
相棒「ちからがさっきまでのすうじゅうばいにふくれあがっている!」
武志「……冗談だろ……」
武志「こっちはもう……ほとんど力が残ってないぞ……」
〈女の声〉「お待ちください、閣下!」
レオンハルト「何だ!? 邪魔をするな!!」
〈女の声〉「お戻りください、閣下!」
〈女の声〉「お怪我をなさっています!」
レオンハルト「くだらぬ!」
レオンハルト「目の前に帝国の敵がいるのだ!」
レオンハルト「この背教者には、相応の罰を与えねばならぬ!」
〈女の声〉「閣下のお怒りはごもっともです。」
〈女の声〉「ですが、閣下は帝国にとって、あまりにも重要なお方です。」
〈女の声〉「万が一にも失うわけにはまいりません。」
〈女の声〉「お願いです……どうか、お戻りください!」
レオンハルト「…………」
レオンハルト「国家のため、というわけか……」
レオンハルト「……よかろう。」
レオンハルト「門を開け。」
レオンハルト「ひとまず戻る。」
レオンハルト「……忌々しい背教者め。」
レオンハルト「勘違いするな。」
レオンハルト「これは貴様の勝利ではない。」
レオンハルト「だが……貴様は今、このトズロン帝国にとって、消し去るべき禍根となった。」
レオンハルト「よく覚えておけ!」
レオンハルト「どこへ逃げようと、どこに隠れようと――」
レオンハルト「必ず貴様を見つけ出す!」
レオンハルト「そして……この手で殺す!!」
ヴォォォン……!
ゴオオオオオッ!!
シュンッ――!
相棒「……いった。」
武志「……本当に……?」
武志「あいつ、本当にいなくなったのか……?」
武志「それで……私は……まだ立ってる……」
武志「うわっ――!」
ドサッ!
相棒「たけし! だいじょうぶか?」
武志「はは……大丈夫……とは言いにくいな……」
武志「もう、くたくただ……」
武志「さすがに……今までで一番きつかった……」
相棒「たけしのおもいつきと、いくらかのうんがなければ、いきのこれなかった。」
相棒「だが、こんかいのことで、あいてにかんぜんにめをつけられた。」
相棒「これからは、もっときびしくなるだろう。」
武志「分かってる、分かってる……」
武志「でも……今だけはいいだろ……」
武志「私たちは……生き残った。」
武志「今は、それだけで十分だ。」
相棒「……そうだな。」

不穏な兆し
#

まや「はぁ……宿題って、ほんと面倒……」
まや「あれ? あの資料、どこに置いたっけ……」
まや「……!」
まや「今の……何?」
まや「誰かに見られてたような……」
まや「……気のせい、かな……?」
ベルナール「…………」
ベルナール「おお……なんと素晴らしい。」
ベルナール「これほど見事な標本が、まだこの地に残されていたとは……」
ベルナール「ふふ……」
ベルナール「待っていなさい。」
ベルナール「もうすぐ君は――私の手の中だ。」